『ブンミおじさんの森』で

石橋今日美

 最良の映画はラディカルなシンプルさを獲得する。本年度カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したアピチャッポン・ウィーラセタクンの新作『ブンミおじさんの森』(『Uncle Boonmee Who Can Recall His Past Lives』アピチャッポン作品としては、ようやく日本初の一般公開決定!監督がコンペティションの審査委員長を務める第11回フィルメックスで一足早く見ることができる)はその鮮やかな実例になっている。

 肝臓ガンに冒されたブンミおじさんは、アピチャッポン自身の故郷でもあるタイ北部の静かな山間で、死期を迎えようとしている。実際の政治的問題(共産化をめぐるイデオロギーの対立、隣国からの労働者の移入など)を盛り込みながらも、フィルムは現実と幻想の安易な二項対立をあっさりと突き崩す時空間を創出する。作品はブンミおじさんと、彼のもとを訪れる別世界の者たち(亡くなった妻の幽霊、猿の精霊に姿を変えた息子)との遭遇を描くが、生者が住まう領域とされる、この世の現実世界と「向こう側」は、根源的な映画の技法と原則によって、その境界を魅惑的にぼやかしてみせる。映画のフレームが何か見せるものであると同時に隠すものであると主張したのは他ならぬアンドレ・バザンだが、この作品において亡霊が出現するために、おどろおどろしい効果音や奇をてらった演出は必要ない。目に見えないはずの存在が、確実に観客の目に映っていた主要登場人物たちとあっさりと共存するためには、戸外の夕食のテーブルを囲むブンミおじさんたちのショットが、鬱蒼とした夜のジャングルの中から、赤く発光する目をこちらにむける漆黒の猿男の画面に切り替わりさえすればよい。

 ここで作品の多くを先走って「解説」することは無粋というものだろう。観客にとって、何かを「見ること(何かが見えること)」とは「信じること(作品世界におけるそのものの存在)」である、という大胆不敵なテーゼが、得も言われる陶酔感とともに具現化されたフィルム、それが『ブンミおじさんの森』である。

『ブンミおじさんの森』 UNCLE BOONMEE WHO CAN RECALL HIS PAST LIVES

監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
提供:シネマライズ
配給:ムヴィオラ

2010年/タイ・イギリス・フランス・ドイツ・スペイン/ 114分

第63回カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞
日本公開2011年春/シネマライズほか全国順次

20 Nov 2010

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