第10回東京フィルメックス レポート vol. 2

石橋今日美

 今年のロッテルダム国際映画祭タイガー・アワード(新人監督に与えられるグランプリ)に輝いた3作品のうちの1本『息もできない』(英題『Breathless』。来春シネマライズにてロードショー公開予定)を見る。監督ヤン・イクチュンは、短編『Always Behind You』(2005)で監督デビューする前に、俳優としてのキャリアを積んでおり、今回は製作・脚本・編集の他に主演もこなしている。

 自分の作品のためなら、アクションのために、どんな肉体的リスクも負える、と監督が覚悟したのかどうか定かではないが、とりあえず冒頭から主人公サンフンの容赦ない借金取りの暴力シーンが展開する。短めのショットを畳みかけるように編集してあるが、ヴァイオレンスを披瀝するためのヴァイオレンスではなく(スタイリッシュであること、様式美とも無縁)、他にどうしようもない、行き場のない暴力、その過剰さが貧困、孤独、憎悪に蝕まれたサンフンという男の人物造型に効果をあげている。観客が容易には好ましく思えないようなキャラクターだが、暴力的な面と同時に借金取りの男たち同士のやりとりに、思わずクスリと笑ってしまう場面が何度もあり、脚本の完成度が高い。

 フィルムはサンフンと女子高生ヨニの出会い、彼らの距離が次第に縮まっていく過程を、それぞれが抱える家族との激しい確執、忌むべき過去を明らかにしながら描いてゆく。映像のレトリックよりも、腹の底からはき出されたエモーションそのものを思わせる生々しい台詞と俳優の身体のあり方の探求によって、力強く骨太な演出がなされている。映画という表現形式そのものと真っ向から格闘している印象を受けた。

25 Nov 2009
© Flowerwild.net All Rights Reserved.