第22回東京国際映画祭レポート vol.3

石橋今日美

 来年度の国際映画祭サーキットで再び話題をよびそうな石井裕也監督の新作『君と歩こう』(『川の底からこんにちは』[2009]とともに2010年劇場公開予定)。本サイトでもすでに取り上げた独自の石井ワールドが、いかなる変貌をとげているのか、海外からのゲストも興味津々。『君と歩こう』は、片田舎の女性英語教師明美(目黒真希)が、男子高校生ノリオ(森岡龍鵜)と東京に駆け落ちするところから始まる。独身34歳、いわゆる「肉食系」でファッショナブルとは決して言えない明美と「草食系」ノリオは、マンションの一室で同居開始。彼女はノリオを弁護士にすべく叱咤激励し、自分はエステ、ジム通いで女を磨くと宣言しつつも、実際にはカラオケ店で呼び込みのバイト。年下の同僚に、やる気のなさを罵倒される。それぞれの主要登場人物たちが、新たな出会いを通して他の人物たちとつながっていく群像劇の構成は、現代の世界中の若手監督たちにもよく見られる形である。作品が展開してゆくにつれて、ラストに向かって、すべての人間関係が予定調和的に収まるのではないかという、無為なアクションの徹底した追求、これまでの作品群の過剰さとはちょっと異質の不安が頭をよぎる。こんなにうまく収まってしまっては、「個性的なTVドラマ」に転じてしまうのではないだろうか……と思わせたところで、見事にそんな予感を裏切ってくれる。が、やはり「落ち着き」を獲得したのではないか、という気もする若手・多作な石井監督にとっての「進化」や「成熟」があるなら、「ウェルメイド」なフィクションの世界の構築には向かってほしくない、と勝手に妄想してしまう。

 前日、素敵な時を過ごしたホー・ユアンとピート・テオが、今年7月に急逝したマレーシア新潮流の先輩格、ヤスミン・アフマドの追悼イベントに出席するというので、早すぎる遺作『タレンタイム』(2009)と彼女が手がけた名作CMの上映が終わったホールに急ぐ。「残されたものたちについての曲」として「Blue on Blue」をピートがギターを手にエモーショナルに歌い上げる。その後、ピート、ヤスミンの親族、彼女を新作に起用したホー・ユアンを囲んでのトークが行われるが、通訳の方まで涙を流すほど。ホーはティッシュの箱をそれぞれにまわす。ゲストまたイベントに駆けつけた熱心な観客の早すぎる死への悲しみ、ヤスミン自身、彼女のフィルムへの熱い思いが会場にあふれた。

05 Nov 2009
© Flowerwild.net All Rights Reserved.