第22回東京国際映画祭レポート vol.2

石橋今日美

 今年1月〜2月初頭に開催されたロッテルダム国際映画祭では、トルコ映画特集が組まれていた。偶然だが、世界各国の監督の長編第1、2作を集めたコンペティション部門でタイガーアワードを受賞した3本のうちの1本が、トルコ出身のマフムト・ファズル・ジョシュクンの『二つのロザリオ』(2009)だった。“Wrong Rosary”という英語タイトルに興味を引かれながら、ロッテルダムで見逃した本作を鑑賞。冒頭、行き倒れかけていた若い女性が尼僧たちに運び込まれ、新しい命と引き替えに息を引き取る様子を速いピッチで描くくだりは、アルモドバル作品を想起させないでもない。が、導入部を過ぎると、イスラム教の礼拝にかかわる仕事をしている青年ムサの、若い女性クララに対する想いが綴られてゆく。作品の始めのシークエンスがプロット展開の鍵になっているのだが、決してサスペンス風ではない。女性に奥手そうなムサが、偶然クララの部屋をのぞけることに驚き、いけないと分かっていながら、思わず彼女を見つめてしまう場面、写真家にふたりの写真を撮ってもらうのに、同じフレームに収まるのが照れくさいのか、微笑む彼女から思いっきり距離を置いた1枚で終わってしまうシーンなど、クリシェに転じがちな瞬間に、作り手の独自の感性を感じさせる。どことなくノスタルジックな色調も印象的。しかし、個人的にはライトな良作にとどまった。

 本年度ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門でお披露目され、パリでも公開された御年81歳、ジャック・リヴェットの新作『小さな山のまわりで』(36 Vues du Pic Saint-Loup、2009)。団長を失ったサーカス団に帰ってきた女性(ジェーン・バーキン)の過去が、たまたま知り合った男性(セルジオ・カステリット)との関係を通して明らかになる。カステリットが主演した『恋ごころ』(2001)での劇場という場のように、さほど大きくはないテントの中のサーカスを、夢幻のミステリアスな空間にさせてしまう手腕は、陶酔感を覚える。が、どうも主演のふたりのカップリングがしっくりこなかった。過去の傷を負った女性という役柄に、ジェーン・バーキンは決してミス・キャストではないが、彼女の過去のリヴェット出演作と比べると、何となく物足りない。ジャンヌ・バリバールのように、コケティッシュで何をやり出すのか分からない不敵さを持ったキャラクターを持ってきたくなる。

 夜は「アジアの風」部門に最新作『心の魔』(2009)が出品された監督ホー・ユアン、同作の音楽を手がけるシンガー・ソングライター、ピート・テオらと合流。それぞれ日本にも熱狂的なファンを持つコンビだ。東京在住というだけで、飲めない私が六本木をナヴィゲートするのが、そもそもの間違いなのだが、一行は会員制バーばかりが入った雑居ビルに迷い込み、「じゃあ、会員になるから」「日本人オンリーです」というやりとりに、「人種差別だよね」と笑いながら、何とかぼったくりでも会員制でもないバーを見つける。いい感じに緩い雰囲気の中、映画や音楽の話題で夜はふけていった。

02 Nov 2009
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