ヤン・クログスガード インタビュー
──『ビルマVJ 消された革命』

インタビュー

Introduction

 ミャンマー軍事独裁国家に潜伏したビデオジャーナリスト=VJたちが撮った映像をもとに、2007年に僧侶たちが起こした革命的なデモを描いた 『ビルマVJ 消された革命』。小型デジタルカメラとインターネットという現代のメディアを武器に、顔のない映像作家たちが残した無数の映像の切れ端から、群衆蜂起の白熱が再構成される。市内の目抜き通りを取り囲むあらゆるビルディングから人々が身を乗り出し「自由を!」の声をあげる。みるみるうちにふくれあがるデモ行進の列。そして、攻撃に転じた政府たちによるおぞましい弾圧。撮影者たち自身の沸騰状態をも感じさせる映像群がそこにはある。メディアを活用した新しいジャーナリズム、新しいドキュメンタリーの可能性がここで確実に示されている。
 企画を立案し、VJたちの中心人物である「ジョシュア」とともに脚本を手がけたデンマークのヤン・クログスガードは、東南アジアに活動の拠点を置くアクティビストであり、ドキュメンタリー作品を手がけるアーティストである。老人たちが人生において果たせずにいて後悔していることを聞き取ってゆくというテレビ番組『101 Regrets』、そして世界中の戦争被害者たちがその傷跡のためにみる悪夢を集めるという現在進行中の企画『I have a dream』など、概要を聞いただけで「見てみたい」と思わせるコンセプチュアルな作品を手がけている。この度、公開に先立ち来日した彼にインタビューする機会に恵まれた。以下、その一部始終を掲載する。
(取材・構成 三浦哲哉)

──『ビルマVJ』は、新しい映像メディアをかくもポジティブに使えることを示した点で画期的な作品だと思いました。あなたは、もともとメディア論を専攻していたそうですね。

 学校で学んだのは、 誰がメディアをコントロールしているのか、情報はどう取捨選択されるか、その背後には誰がいるのか、世論はどのように形成され、操作されのか、そのような問題でした。
 ビルマは、ごく一握りの人間が、残り全員を支配し、搾取しようとしており、その点において世界でもっとも過酷な場所のひとつです。メディアは支配者たちのゲームの一部でした。将軍たちは人々から教育の機会を故意に奪ってきました。教育はなければないほどよい。教育のない社会に変化は生まれないからです。情報もほぼ完全に規制されています。ここではメディアが体制の利益になるように用いられているにすぎません。それがメディアというものの一面なのです。 ビルマVJではそのような側面におけるメディアを批判しています。わたしたちのメディアの使い方 はそれとは異なります。変化を起こそうとする少数の人々が、インターネットとデジタルカメラという新しいテクノロジーを与えられ、人間が家族とともに暮らせる平和な世界を実現するために使っているのです。メディアの同じ力は、よい方にも悪い方にも作用します。人間に同じひとつの考えを強要する場合もあれば、変化を生みだす場合もあります。メディアの使用には、常に両者の葛藤があります。わたしは平和のために利用したいと思っています。  

──この企画はどのように立てられたのでしょうか。

 当初、主人公のビデオジャーナリスト「ジョシュア」を追った30分ほどの短篇企画として始まったのですが、監督とプロデューサーと内容を検討するうちに、長篇映画に変えることに決めました。そして脚本を書き足しました。というのは、歴史的に前代未聞のことが起きていたからです。一般市民のビデオジャーナリストが、隠れて映像を撮って、BBCやCNNに送っている。メディアの問題としても、画期的な意味がありました。1988年の大虐殺のときには、そのように映像が撮られることはありませんでした。また、行進のときに、僧侶たちが突然、暴力を蒙りましたが、VJたちは僧侶たちを守る役割を果たしました。世界に映像を晒すことで、暴力を抑止する効果があったのです。
 これは、一般的な監視カメラの場合とちょうど逆です。権力側が監視カメラを用いて市民を操作するのではなく、市民側が監視カメラを用いて自分たちの身を守ったのですから。

──実際にVJたちが撮った映像のほかに、再現パートを使われています。そのことについてはご自身、どうお考えですか。

 再現パートは、すべてジョシュアがわたしに語ってくれた実際の出来事に基づいています。僕は彼と一緒に二ヶ月間、それら出来事について調査、検証しました。ジョシュア以外の何人かのVJについて描いている部分も、彼ら自身が記憶し、語ってくれた出来事に基づいています。電話の会話は、部分的に、Googleトークで録音された音源に基づいています。ですので、VJたち自身が撮ることのできなかった部分も、すべて本当に起きたことです。

──しかし映像としては、ドキュメンタリー部分と再現された部分が、区別なく編集されており、どちらがどちらかわからなくなる観客もいると思います。100%純粋なドキュメンタリー映像ではありませんね。

 それはたしかにそうです。純潔主義を貫くべきというなら、なにも書き足すべきではないし、その場で撮影できたものだけに素材を限るべきなのでしょう。しかしわたしは、起きた出来事に従っている限りで、書き足してもいいと考えました。再現パートは半分を超えてはいません。主に、ジョシュアが電話で話す場面など、つなぎの部分です。作品がひとつにまとまることを重視したのです。良い音楽がそうであるように、流れが途切れない作品にしたいと思いました。そしてその結果に満足しています。

──アンダース・オステルガルド監督とはどのようにコラボレートしたのですか。また、ナレーションは誰がどのように書いたのでしょうか。

 ナレーションの部分は、わたしとジョシュアとアンダースの三人で書きました。まず、 僕とジョシュアがヤンゴンで二ヶ月間、一緒に書きました。ジョシュアにまず起きたことについての話を聞き、さらにそこから僕がどんどん掘り下げていったのです。同時に、アンダースとコンタクトを取り、相談しながら話を発展させていきました。

──ところで、スタローンの『ランボー最後の聖戦』は見ましたか?

 ええ、見ました!

──この映画を作る前でしたか?

 いや、まさに作っている最中でした。『ランボー最後の戦場』(2008)の最初の二分間は、ビルマ国内で実際に撮られたフッテージです。燃える村などが映されています。ちょうど調査をしていましたので、とても興味深く見ました。でも映画は最悪でしたね(笑)。こういう類の映画はあんまり好きじゃないんですよ。とはいえ、スタローンもビルマのなにごとかを映しているのは事実です。世界の注目を集めましたし、その点に関しては完全にリスペクトしています。

──最後に、現在進行中であるという『I have a dream』企画について教えてもらえますか。

 すでにとりかかっているのですが、難航していますね。ルワンダとカンボジアの人たちと作業をしていて、また、アフガニスタンにも取材に行く予定なのですが、どのようにひとつの物語に発展させるかを思案中の段階です。ひとびとが語る夢を収集することに関しては、問題ないのですが、人々の関心に訴えかける映像にまとめあげるのが難しい。アーカイブや美術館の外にいるひとに見てもらおうと思うなら、物語は不可欠ですから。

──アート・フィルム的な体裁では満足されないということでしょうか。

 そう、ただ美術館に収蔵されてというのではなく、戦争の傷をおって悪夢に苛まれるひとたちの治療にひろく役立てればと願っています。治療を受けているひとがこの映像を見たとき、自分たち以外にも同じ境遇の人間がいるということ、カンボジアや、第二次世界大戦の日本や、ウガンダやベトナムでも同様のことが起きたことを知ってほしいと思いました。世界中のどこでも患者たちは悪夢は何度もくりし見続けているのです。

──スタローンも悪夢を見続けていますね。

 たしかに!これはスタローンのための映画にもなりますね。彼、出資してくれないでしょうかね(笑)。

監督:アンダース・オステルガルド
原案・脚本:ヤン・クログスガード
編集:ヤヌス・ビレスコフ=ヤンセン
プロデューサー:リーゼ・レンゼー=ミュラー
製作:マジック・アワー・フィルムス
配給:東風
5月15日シアター・イメージフォーラムにてロードショー、他全国順次公開

15 May 2010

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