『台北24時』、リー・カンション監督 インタビュー

インタビュー

 香港国際映画祭会期中の見本市FILMARTで見たオムニバス作品『台北24時』が、東京国際映画祭でお披露目となった。上映にあわせて、8つのエピソードの中で秀逸の仕上がりだった短編 “Remembrance”の監督リー・カンションが来日。ツァイ・ミンリャン監督が俳優として登場する点でも見逃せない本作の撮影、監督・共演者と実際にオープンした喫茶店について語ってもらった。(インタビュー・構成:石橋今日美)

──『ヘルプ・ミー・エロス』(2007)で来日された時、次回作はダンスか野球をテーマにしたい、とうかがいましたが、見事ひとりのダンサーへのオマージュを捧げる短編 “Remembrance”を撮られたのですね。ダンスへのこだわりとオムニバス映画『台北24時』に参加された経緯を聞かせてください。

「公共電影」というTV局から偶然この企画の話があったのですが、最初はあまり乗り気ではありませんでした。というのも、これまでずっと長編を撮ってきましたし、バジェットの制約もありました[日本円で約600万円]。でもプロデューサーの熱心な依頼を受けて、最終的に撮ることにしました。ダンスを選んだのは、ずっとルオ・マンフェイのドキュメンタリーを撮影したいと思っていたのですが、彼女が亡くなってしまったので、彼女に捧げる気持ちを込めてこの短編を作りました。

──閉店する直前の喫茶店とその女性オーナーという設定はどこから?

まずルオ・マンフェイを記念する作品にしたいという思いがありました。彼女にはたくさんの教え子がいて、数々の傑作を残し、一生を踊りに捧げた舞踏家でした。またルー・イーチンという女性店主とルオ・マンフェイは、二人とも非常に年齢が近いのですが、オーナーは20年以上経営してきた喫茶店を閉める決意をし、これまで自分を縛ってきたものを断ち切って、新しい人生を歩み出します 。この二人の女性に関連性があると思ったので、こういう形にしました。

──最後の夜を迎えた喫茶店の唯一の客に、ツァイ・ミンリャン監督を起用したのは?

ツァイ・ミンリャンの『Hole~洞』(1998)のミュージカルの振り付けをルオ・マンフェイが手がけて依頼、彼らはよき友人になりました。今回はダンスと映画ということでキャスティングをしてきたのですが、彼女に関係の深い人物ということで、やはりツァイ監督が最適だと思ったのです。

──オーナー役のルー・イーチンは、ツァイ監督作品の常連でもあるので、一緒にやりやすかったのではないでしょうか?

そうですね。もう7、8年ツァイ監督と組んでますし、私の最初の監督作『迷子』(2003)にも主演してもらいました。彼女はツァイ監督に見いだされ、女優業が忙しくなったために、20年あまり経営していた喫茶店を手放しました。その当時、ツァイ監督はその店で脚本を書いていて、彼女と知り合ったんです。

──本作では、ルオ・マンフェイがダンスに使用した音楽が最初、ラジオから流れ、クライマックスに向けて、キャメラが喫茶店の外に出ると作品空間全体に響き渡って、客と店主が踊り出し、ラストの彼女のモノクロ映像につながっていく、という忘れがたい音の演出がなされています。これまでの長編作と比較して、音の設計へのこだわりは?

今回は音楽がとりわけ重要だと考えていました。また例えばコーヒーをいれる音や水の音も、かなりクリアに録っています。やはり短編は長編より撮るのが難しく、細部に非常に神経を使う必要があります。しかも、短い時間の中で高まりを出していかなければいけないので、かなり厳格に音にもキャメラにも要求しています。

──確かにコーヒー豆や挽きたての粉にお湯が注がれるアップなど、ディテールにこだわった映像が印象的です。同時にダイアローグをほとんど排して、音楽と沈黙、物音で構成されていますね。

なんといっても雰囲気が大切です。20年間経営していたコーヒー店を閉めるという気持ちに観客を向かわせなければいけないので。なので、その場の雰囲気が効果的に醸し出されるように、観客がラジオの音に耳を澄ませ、静かに作品に入っていけるようにしました。

──その静けさの中で、エモーショナルな高まりとして、ツァイ・ミンリャン監督の目から涙がこぼれ落ちるわけですが、どのように演技指導をされたのですか?

もともとツァイ監督は感情豊かな人ですが、今回の泣くシーンは2つのカットから成り立っています。最初のカットを撮る時は、すぐに涙が出てきましたが、二番目ではなかなか泣くことができませんでした。彼は亡くなったお父さんやお母さん、ダンサーのルオ・マンフェイのことなどをひたすら考えて、泣ける気持ちに持っていこうとしましたが、それでもうまくいきませんでした。そこでこの作品の監督である私が彼と向き合って話をして、お互いに目を見ているうちに、涙腺がゆるんでいくのが分かり、ようやく撮影することができました。

──オムニバスの他の作品が、クラブミュージックやラップ、携帯電話などのコミュニケーション・ツールを援用して、「今日の」台北を表現していたのに対し、本作は外国人の眼からみると、10年前の台北でもあり得るし、3年後の台北でもあり得ると感じました。ツァイ監督演じるお客の携帯電話は映っていますが、ストーリーに貢献することはありません。ことさらに「今」を強調していないわけですが、作品の持つ時代性について考えられましたか?

特にそれを意識したわけではないのですが、過去への思い、過去の人物、昔のコーヒーの味を懐かしむ、といったことがテーマになっているので、そうなったのかもしれません。今回の8つのストーリーはそれぞれが異なる切り口で台北を描いているので、私はなかなか面白いなと思いました。お互いに重複する部分がほとんどない上、男性と女性の監督では異なっていて、男性の監督が親子の情愛を取り上げているのに対して、女性の監督が幻想的な物事を描いているのが興味深かったです。

──今後も監督業を意欲的に続けてゆきたい?

監督も俳優も、コーヒー店の経営も全部やりたいですね。

──コーヒー店?!

ええ、この短編を撮ってからツァイ・ミンリャン監督がルー・イーチンを誘って3人でコーヒー店を開いたんです。というのも彼女が店じまいをしてから、おいしいコーヒーが飲めなくなってしまったので。 [台北にある3人の喫茶店「蔡李陸珈琲商號」]

──監督としての経験のフィードバックが、演じる側に回ったときにありますか?『Face』のように、言葉が通じない共演者との大作に出演される場合など、監督業で得たものが生かされるのでしょうか?

そうですね、それはありますね。やはり俳優の状態というものを深く知ることができるし、俳優と監督のコミュニケーションについてもさらに知ることができるので。監督と役者というのは、監督が主導的で、俳優が受動的、という形でドラマを表現していくわけですから、役者というのは自分の経験も含めてすべてをさらけ出して、それを捧げないとできないんです。特にツァイ・ミンリャン監督の作品は、全裸になる場面などもあり、それは監督との信頼関係があって、そういうことをしてもいいと思えなければできないので。

──今後のプロジェクトについて教えてください。

やっぱり野球とダンスとコーヒーと・・・(笑)

──個人的に好きなものばかり?

やっぱり自分が興味を持つものでないと撮れないので、今はこういうものであれば撮りたいと思っています。最近はダイビングにも凝っていて、今年の夏はずっと海辺で過ごしたので、ダイビングの映画も将来撮るかもしれません(笑)

2009年10月、東京国際映画祭にて

21 Dec 2009

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