可憐で過激な勇者たち──
「桃まつりpresents kiss!」を盛り上げる
女性監督たちの座談会

インタビュー

 まだ肌寒い夜道を歩いていると、不意に甘やかな香りに包まれる。闇の中で甘美な罠に落ちてしまったかのように。寒空を見上げると満開の白梅。デリケートで健気でありながら、凛と咲き誇る力強さに満ちている。若手女性監督の作品をより多くの人に届けるために立ち上がった、映画製作上映団体“桃まつり”。昨年話題を呼んだ上映会「桃まつり presents 真夜中の宴」とは顔ぶれを変えて、今年新たに宴に参加する9人の女性監督たちは、どこか梅の花を思わせる。それぞれが監督業以外の職業を持ちながら、自らが信じる映画のヴィジョン実現に奮闘し、“kiss”というお題で誰の作品にも似ていない短編作品を撮り上げた。“kiss”というテーマのロマンティックな響きは、まさに罠かもしれない。それぞれのフィルムは、安易な恋愛劇からはほど遠く、日常世界を覆う薄い皮膜を引きはがし、心の闇を黒々と照らし出す。「桃まつり」とは、映画の現在にささやかな革命を起こす、可憐で過激な勇者たちのグループでもあるのだ。

座談会参加者:粟津慶子(『収穫』監督)、山田咲(『タッチ ミー』監督)、矢部真弓(『月夜のバニー』監督)、竹本直美(『地蔵ノ辻』監督)、長島良江(『それを何と呼ぶ?』監督)、別府裕美子(『クシコスポスト』監督)

聞き手・構成:石橋今日美 (収録:3月11日@ユーロスペース)

 

個性豊かな作り手が集うショートフィルムの宴

──どういうきっかけでみなさん「桃まつり」に参加されることになったのですか?

大野[大野敦子プロデューサー。昨年の「桃まつり」には監督としても参加]が主催をしていて、今後やっていく気が強そうな人をピックアップしていく。去年の監督が紹介するっていうパターンもあります。

──監督が企画・製作から宣伝まで、すべてを受け持つというのはどうですか?

初めてのことが一杯体験できて、それは面白いですね。大変は大変。

──脚本を書くときは、まあ、何稿も書かれると思うんですけど、最初に浮かんでくるのはイメージですか? それとも最後までストーリーが決まってから? 脚本の質問をするのは、短編はすごく難しいと思っていて。短い時間の中で起承転結があり、最後はきちんとオチがないとまずいっていうのがあるじゃないですか。

私は去年も参加しているのですが、「真夜中の宴」[昨年の「桃まつり」イベント・タイトル]で「短編になっていない」という意見を非常にたくさん頂いたんですね。なので、今年は短編ってどういうものなのかなっていうところから、ストーリーはごくごくシンプルに。あとは見ている人の想像で物語を感じてっていう風な作り方をしました。そこが一番気をつけた点です。

──みなさんどうですか?

私は書き始めちゃうタイプなんですよ。書きながら作っていく方なので壁にぶつかりますね、短編だと。短い時間内に起承転結を落とし込んでいくことを考えると、ある程度構成のセオリーみたいなものに従うことになる。決まってきちゃうのかなと。そうじゃないことをできる人もいるんでしょうけど……



自主制作で映画を撮るということ

──皆さん自主制作でずっとやってこられたんですか? そうですね、はい。 ──現場のことはよく分からないのですが、日本だと自主制作といわゆる商業公開される作品の境目は、乗り越えるのに結構苦しいものなんですか? 自主制作から、長編が撮れるようになるまでは、かなり険しいものなんでしょうか? どういうモチベーションで、「桃まつり」に参加されているのかな、という疑問もあっておうかがいします。

多分ひとりひとりバランスが違うと思います。

──これまで何作ぐらい撮っているのかも含めておうかがいしたいです。

私は今までで2作です。今回のも入れると3作です。

──どうですか?

うーん、まだまだですね。

──昔から映画が好きで監督になろうとしていたんですか?

思い立ったのは割と遅くて20代後半ぐらいからですね。で、映画美学校に入って。それから3年に一回ぐらい

──制作費とかは?

自分のお金ですね。まだ集めるところまでは。

──じゃあ、お金が貯まったら作る。

そういう状態ですね、今のところは。

──結局、いくらぐらいかかるんですか?

今回ので20万ぐらいですね。

──えーー! そんな、安い!

基本的にDVなので。フィルムだと100万かかるけれども。

──20万で?

時間もかからないし。

──スタッフの人件費は?

基本的にスタッフは無料。

無料。

それかボランティア。美学校の同期だったり友人だったり。

セミプロレベルが手弁当で参加しているっていう点が、クオリティーを維持するのに大きいです。

──どうですか?

私も同じです。私も「桃まつり」を始めてから映画を撮り始めているので。作品は3作品目です。

──このままでも良いから、続けていければっていう感じですか?

いずれは劇映画を撮りたいです。今は本末転倒ですが、映画を撮るために仕事をしているっていうような状態が続いています。そういう意味で自分たちの作品をアピールする場になれば良いなと思っています。

──いかがですか?

いつまでも撮っていきたいと思っていますが…… まだ撮り始めたばかりなので、やるたびに自分が何に向かって撮っていくべきなのか、ということをはっきりさせている状態です。そういうことを追いかけてやろうと思っているので、結果的に大きなバジェット作品やたくさんの劇場でかかるようになれば、それはそれでそういう結果もあるのかなと思いますけども。それが目標というわけではないです。

──いつぐらいから撮り始めましたか? もともと映画が好きだったんですか?

見始めたのは大学入ってから、20歳過ぎぐらいからです。卒業するまで一本も撮ったことがなくて。24、5ぐらいからです。それまで実験映画を作っていました。

──どういうモチベーションで「桃まつり」に参加していますか?

映画美学校を卒業してから、制作会社で働いたり、フリーで現場とか、自主映画の美術とかいろいろやったりして。なんか監督ってすごく人に迷惑をかけるものだし、できればよっぽどやりたいものでない限り監督なんかやりたくない、と思ったりもしたんですけど。たまたま「桃まつり」があるんだけど撮らないっていう話が電話で来たときは、芸大の『ラッシュライフ』っていう今度公開する作品の美術部をやってるときで、制作費も自分で出さなきゃいけないって聞いたから、お金がなかったんでどうしようかなって思ったんですが、運良くお金を貸してくれる人がいたので…… 貯金はなかったんですが。

(一同)すごーい!(笑)

それだったらやってみようかな、と思ってやってみました。せっかく撮るんだったら、自主映画とかじゃなくて、全然知らない人が見ても、ちゃんと映画として成立しているものが撮りたいなと思って。

──今回参加されていかがですか?

長編撮って、商業監督としてやりたいとは考えてなかったんですけど、今回やってみて、次は短編じゃなくて長いの撮ってみたいなと思うようにはなりました。

──何本目ですか?

2本目です。1本目も短編で10分です。長いのに挑戦したいな、という欲はでてきました。

──予算的にはどれぐらい?

多分15万ぐらいですかね。

──へー、そうですか。

私は完結した作品としては3本目で、モチベーションは、このままでも良いとは全く思っていなくて、できれば商業とかでもやっていきたくて。映画で食べていけるようになりたいと思ってはいるんですけど。

──難しいですよね。

これを撮ったからといって、すぐに結びつくとはもちろん思っていないんですが、参加することによっていろんな方と知り合いにもなれるし、つながりはすごく大事だと最近痛感しているので。あとは、撮っていかないとしょうがないので、とにかくやれるものはやってみようと思い参加しました。



 

俳優に学ぶ──出演者へのアプローチ

──そんなにギャラも出せなくて、プロの方が出演されてる場合、演出としてどんなアプローチをするのですか? こんな感じじゃないのに、みたいなときの葛藤とか…… 自分の世界を実現してくれている人に対してどんな風にアプローチされていますか? 『クシコスポスト』の主演の子役の場合、下手するとあの女の子の方が芸歴が長いのでは?

8年ですね。全然私なんかより現場慣れしていて。

──子役ってそれでも難しいって言われてるのに、この子の方がもしかして芸歴が長いんじゃないかって…… どうやって演技指導してるのかなと。

そういうことは気にしなかったです。このコの方が長いとかは。役柄になろうというのがきちんとできている子だったので、基本的な動きとかを主に言うくらいで。

──オーディションはされるんですか?

主役の女の子はしました。おじさん役の岡部尚さんはプロの方ですが、あて書きをしていて。あとは今回は知っている人が多かったので。キャスティングが8割くらい演出を決めるかなと思っています。子役の河村満里愛さんも雰囲気を見て。

──何日ぐらい撮影しましたか?

河村さんは6日で、岡部さんが5日、その他の方は1日とか2日とか3日とか。

──今回一番何が大変でしたか、現場で?

物理的な問題なんですけど、水不足の設定なのに毎日雨が降った。

(一同:笑)

どんどんスケジュールが変わるし、やり方も変えなくてはいけない。それで、焦ってしまって。でもその焦った状況で、プロの役者さんをちゃんと演出しなきゃいけない。で、思ってるものと違うものが出てきたときに、判断力が問われるときに、自分が焦ってるっていうのが疲れました。

──本当はドッシリ構えてなきゃいけないのにって……

やっぱりどうしても気にしちゃいましたね。

──天気はプロの人でも、どうしようもないですからね。どうでしょうか? 演出に関して

私も結構オーディションで会った何人かのうち、高校生役の4人の組み合わせでしっくり来る子を選びました。特に演技とか、感情のことは演出はせず、どっちむいて動けとか、その程度であとはみんな役者さんに任せました。並べてみたらきれいな子しかいなかったので、ちょっと変な感じがしたので、そこでホラーっぽい感じに流れていったっていうのもありますね。

──先生役の女性、すごいですよね。

先生は眼鏡とったら美人っていう設定だったんですけど、そういうのをどうやって撮ったら良いのか全然わからなくて。太った人ときれいな人を用意して、とも考えたのですが、あの先生だとどちらにも見えるような感じだったので、あ、これはいけると思いましたね。

──本物の先生ではないんですよね。

違いますね、役者さんですね。

──何が一番大変でしたか?

シナリオ自体がぶっ飛んだ内容だったので、どう撮るかっていうのが誰もわかっていない状態で、私もわかっていないような状態で終わりました。

──何日ぐらいその状態が続きましたか?

4日間ですね。

──4日間!

なので、とりあえず撮って後でどうにかしようと。あと、雨が降りましたね。

──でもグラウンドとか、ぐちゃぐちゃになっちゃう……

なってるのは、ごまかしてます。でも、もう明らかに急に雨が降ってるっていうのはそのままにしてあります。

私はシナリオを先に書いてそのイメージに合う人を…… 河井[青葉]さんは去年の「桃まつり」の作品にも出ていたのと、若い人で不思議なイメージの人って他に思い当たらなかったので。

──手垢がついてますよね、普通にCMで見るカワイイ系とか…… 河井さんは、どれかわからない。

ちょっと浮世離れしている。ご本人も言ってたんですけど、「普通に人間の役がない!」って。『PASSION』(2008)では普通に人間の女性の役ですけど。

──でも怖かったシーンもありました。

どっかちょっと天女的イメージでしたよね。なので、あ、これは河井さんだと。

──あと聖母マリアみたいになるじゃないですか、最後。

あれも去年の作品に出てくださっていた森田[亜紀]さんという女優さんなんですが、他の作品で見ても森田さんの斜めから見た顔がとても美しいと思いました。母親役で死んでる人で、河井さんと相反して、彼女は人間であって母親でなくてはいけないので、「あ、これは森田さんがいけるかもしれない」と思ってお願いしたら、皆さん運良く出ていただけたので。 ──現場での指導は?

やっぱり良い役者さんを使うと、現場がすごくスムーズにいきます。役者さん達がすごいなと思うのは、脚本をちゃんと理解してきてくださるので、テストの段階で現場で動いてもらうんですが、大きく解釈が違うということはなかったです。逆に動いてもらって、こちらがそういう撮り方もあるんだと気付かされたりして非常に楽しかったです。勉強にもなりました。

──主人公のKaoRiさんは、カラックスの映画[オムニバス『TOKYO !』の『Merde』(2008)で通訳役]にも出てますよね。コミュニケーションのレベルで、いかがでした?

私は自分で演技ができないので、言葉で伝えることしかできない。それは、はじめの段階から理解してもらっていたと思います。

──ダンサー以外はプロの役者さんなんですか?

そうですね。主人公3人以外は私の知人です。「エキストラぐらいだから」とだまして。

──だましは大切ですよ。

楽しんでもらえたので良かったですけども。

私は今回、大人の話をやったので、経験のある役者さんに来ていただいて、ほとんどおまかせでした。私が甘えさせていただいたような感じで。ラッキーだったなと思っています。

──特にこうして欲しい、とかは?

本読みとかリハーサルは一回やって、そのときに「こういう感じをイメージしています」というのはあらかじめ伝えていたので、そんなに現場で変えて欲しいということはなかったです。違うかなと思って変えてもらったときもあるのですが、編集で見ると大抵私が何か言って変えてもらったのは良くなくて、役者さんが最初に演じてくれたのがやっぱり一番良いということを発見しました。

──経験のある方を使うとそれなりに学ぶことも多いですか?

多いですね。

不思議ですよ。同じことが何回もできる。

私も前に撮ったときに、同じ経験をしていて、考えてるのと違うことを役者さんがやって、直してもらったりするんですけど、後で見るとやっぱり役者さんがやってくれた方が断然良かったです。黙ってた方がいいのだということがわかりました。

私の作品は、主人公の中村織央さんという方以外はみんな素人だったので、まかせる感じではないです。だんだん慣れてくると自然にやってくれたりとか。子役も結構自然に、シナリオの内容を全部理解しているのではないにせよ、ちゃんと動きはできてたと思います。おじさん役の人は、お芝居をやったことはないと思うんですけど……

──本当に嫌なヤツに見えますよね。

あの人は一番お芝居が上手かったかな、っていう気がしています。理解力があるのか何なのかはわからないですけど。体の肉のつき方とか、衣装に合ってるし、ひげも良いし、すごい良かったと思います。

 

恋愛は苦手?

──フランス映画などと比べて、前から日本映画には男女の恋愛とか、女性から見て女性に見える人がほとんど皆無で、精神的なほのかな愛や恋はありますが、肉体的な欲望はない。わざとらしく見えちゃう時期がすごくあってですね、なんで日本映画の今となるとこうなっちゃうんだろうって思って。今回「桃まつり」で、女性の皆さんの作品は、どうなるのかなって思ったら、やっぱり男性の出番が少なくなっちゃうんですよね。女性の方が書きやすいっていうのがあるのでしょうか? 主に恋愛というのがなかったような気がするんですが、どうしてですか?

警戒感みたいなものが……

──警戒心?

異性愛を描くときに、今まで男性の視点から描かれてきた恋愛の映像はたくさんあって、私の場合はそういう表現にのみ込まれてしまうのではないか、ストーリーにしてもカメラの置き方にしても、っていう警戒感があって。そういうことから女性が主人公になっているという。自分が女で、物語を語ろうとしたら主人公が女になったということもある。

──主人公が自分とかぶる部分はありますか?

あまりないです。自分で自分がこういう人間だと、はっきりと言葉にできていないので。

──ステレオタイプの、男性からみた恋愛映画になるのが恐いから?

それはすごく気をつけなければと思っています。

実際、恋愛映画はあまり見ないですよね。

──ラブラブじゃなくても、崩れ落ちていくカップルでも良いんですけど。

うーん、それをテーマにするよりも他の方が面白く感じてしまいますね。

──それは自分が女性だから書きやすいっていう?

それもありますね。あと、やっぱり意地悪な女の子とかを見るのが一番面白い。

(一同:笑)

──自分の抑圧されている部分が出てしまう?

面白い、とにかく面白いじゃないですか。女の人の邪推とかですね。

あの台詞の逸話……

──何ですか?

「嘘をつけるのは美人の特権だ」っていうのが。

──そう! すごいと思った。

この間は「美人に嘘をつかれたから」って言ったんですけど。もうひとつあって、私は結構ずけずけ言っちゃうんですね。嘘をつかずに、考えなしで。だから美人っぽくみられないのかなっていう。

(一同:笑)

──真をついた台詞ですよね。もし男性が主人公だったら、それと同じような台詞は出てこなかったかもしれない?

男性の面白さをまだ見つけてないのかもしれない。女性のそういう所に匹敵するような、ちょっと笑える部分ですね。

私は前作も[主人公は]男性だったんです。それは単純に私が男の人が好きだからということから始まるんですけど。恋愛を描かなかったのは。今回お題がキスなのと、シナリオを見た段階でやはり恋愛話になるような企画が多かったので。

私は長編[の脚本を]書いてるのも、家族の話とか田舎の話とか、そういうのばっかりで、恋愛とか血縁以外の関係性まで考えていなくて。家族っていうのは血がつながっていても立場はばらばらで、その中でも葛藤とかばっかりなんですよね。でも恋愛のつもりでもあるんですよ。例えば親から虐待を受けた兄弟同士は近親相姦がおきやすいとか。はっきりと台詞や芝居で見せているわけではないですけど、シーン23とかその辺で。

(一同:笑)シーン23ってどこ?

覚えてるよ、そりゃー。編集とかやれば。その辺でハッキリとそういっている訳ではないですが。過去にそういうことがあったのかな、という台詞があったりとかして。

──特定の場所とそこに集う人々に興味が?

そうですね。

──空想で、恋愛とかではなく、自分が知っている場所で、人間関係があるという方が……

せっかく撮るんだったら、お金がないとか、制作的にやりやすいシナリオを書くよりは、撮りたいものを撮った方がいいかなということです。

私は今まで男性の話ばかり書いてきていて、自分では意識していなかったんですが、女の子の話も書いたらと言われたりして、のせられやすいので、書いてみたんですけど。

男の馬鹿っぽさみたいなのは出てましたよね。果物を買い続けるとか。

(一同:笑)

空っぽなキャラクターは結構好きです。どうしても自分が出ちゃう作り手もいると思うんですけど、そういう感覚がよくわからなくて、何もないところから作り出していこうと思う方です。



 

インスピレーションのソース

──『月夜のバニー』の紙皿がすごく面白かったです。

あれはアメリカの変なお母さんで、食器を洗うのが面倒くさいから毎回全部、紙皿で出してる人をテレビで見たんですよ。

──深読みしてた。あの男が食器を壊すからかと思ってた。

私もそう思った。

壊すからというよりも、私の設定としては喧嘩しすぎてお皿がなくなっちゃった、ということでした。元ネタはテレビで見て面白いからでした。

──冷凍食品をチンする家庭じゃないんですよね。だからこそ紙皿に入ってるのが面白い。

面白い人って世の中にたくさんいて、なんでそこはこんなにちゃんとやるのに、こっちはこんなにおざなりなのか、みたいな、いびつな人ってたくさんいるなと。

──最初の発想は皆さんどういうところから?

思い出せない……

夢じゃなかったっけ?

金色だ、金色。

あ、そうだ、金色だ。金色が輝くシーンを最初撮りたかったんですよ。高校のときに、部室を銀色に塗ってしまったっていう事件がありまして、それをからめて学園ものにしようと思いました。

それ実話?

実話ですね。

──普段からネタをためておくんですか?

ネタ帳みたいなのはあります。

ニュースだったり、「この夢使える」と思ったら書くとか。本で面白い台詞があるときとかもメモります。

──映画を見ることから、映画作りに入ったのですか? それとも他の体験が、映画を作ることにつながっているのですか?

両方。パクってやろうと思って、いろいろやって失敗をして。結局カメラを回す段階になると、全然違うものになっているから、どうしようもないと思って。だからやり方を取り入れたりとかは考えます。

──どういう監督に影響を受けましたか?

オリヴェイラとかアンゲロプロスとか、オルタナティヴな方向に行く傾向があります。

──どうですか?

ディビッド・リンチとか。真似したいと思うのはファンタジー映画の……

──ティム・バートンとかは?

あー好きですね。最近は見てないけど。テリー・ギリアムとかも好きですね。

好きというよりも、映画美学校に入ろうと決心した映画は、『ゴダールのリア王』(1987)でした。たまたまガイダンスにいった帰りに公開していて、もうなくなった三百人劇場で見ました。田舎にいたのでゴダールって知らなかったんですよ。当時TSUTAYAもなかったし。ただ、「ゴダールってよく聞くな」というので、ちょっと見てみようと思ったんですね。で、それまで見ていたものとは全く違って、かなりな衝撃で、もしかしたら映画という表現は自分が考えていたものとは全く違うのかもしれないと興味を持って、よし受けてみようとなりました。

影響を受けたのは万田邦敏さんです。もろに。

──海外の監督は?

ダグラス・サークとか大好きです。追いつめられている人とか。どうしようもない状況に追いつめられている人の話とかが好きで。

──サークのメロドラマはどうですか?

『悲しみは空の彼方に』(1959)はすごい好きです。

いろんな映画が好きです。子供の頃は地元に映画館がなかったので。

私は映画館はあったんですけど、商業映画しか来なかった。

そういう中でテレビの洋画劇場とかBSで映画を見ていたりはしました。きっかけになったのは映画館で美学校のチラシを見て、夜間で一週間に1回か2回で行けるんだと。知っている名前も講師にあがっていたし。で、安かったし。他の映画学校とかも調べたけど。その時大学3年ぐらいで、就活する気持ちには全くなれずに。普通に働くよりかは、やりたいことをやってみようと。

チラシですね。チラシに影響を受けた。チラシがかっこ良かった、美学校は。青空でカメラがこうあって。

私も大学を卒業するまで映画をやったことがなくて、昔から好きではあったんですけど。大学で映画論という授業があって、[鈴木]清順とフェリーニを見てレポートを書くという…… そのときにこういう世界があるんだと思って。そこで自分もやれるんだろうという間違った認識を抱いたのがきっかけで、そのまま卒業してのんきに美学校に入りました。



「女性的な」映画?

──映画は基本的にマッチョな業界だと思うんですが、皆さんは男性と女性の感性はそんなに違うと思いますか? 個人的なことを言うと、私は映画を見ているときはむしろ男性になっている気がして、男性が女性にムラムラとくるのが映画を見ているとよくわかる。自らのジェンダーと映画を撮っていることに関して何か思われることはありますか?

特には意識していない、というか意識しては何も撮れないので。ただ、売り方として女性が撮ったということで自分の作品を見てもらえるのはありだと思います。見てもらって「女性的だね」と言われることは、ほぼないんですね。去年の「桃まつり」もそうでした。だから、見てもらった勝ちだと。見る前に何と言われようと、お客さんがくれば良いなと思います。

表立ってものを作るのが大変だったという経験はないのですが、言葉にしづらいくらい細かいところで、引っかかってるな、と感じます。例えばさっきの「どういう監督に影響を受けたか」という質問でいえば、私が見てきた中で、女性でこの監督にハッキリと影響を受けたとか、何歳の時に映画に目覚めたという人は少ない。そういう質問形式自体がマッチョな環境で培われてきたインデックスのひとつだったりしてうまく答えられない。自覚しない部分をうまく言葉にできていないと感じます。それは物語を作る上でも、自分の場合はわだかまりがあります。自分が整理できているやり方でやろうとすると、結果的に非常にマッチョなものになっていたりする時もある。ジレンマを感じます。

──合理的なロジックでシナリオを組み立てるというよりも、分からないなりに作っていく感じですか?

今回はものすごく合理的にやりました。

よく言われるような「女性ならではのきめ細かな表現」とかは私にはないと思うのですが、映画の中で描いている女性像に関しては「男の人はこういう女性像できないでしょ?」みたいな。「たぶんできないな」みたいな気持ちはありますね。そういうのをやってやろうと。

──それはポジティヴですね。むしろ良いことですね。

だいたいドラマの原作になるような小説なんかでも、女の人が書いた方が面白かったりしますね。私が読むのは「ワタオニ」[『渡る世間は鬼ばかり』]とかそういうのなんですけど。

(一同:笑)

子供の頃に流行っていたドラマの話なんですけど、女性の作品が多いですね。向田邦子とか山崎豊子とか。美学校にいっても男性はいろんなことを知っているけど、お話を作ると女の子が作った方が面白い。今まで現場がきつかったから女の子がいなかっただけで。ドラマを作るとなると、女が占めていっちゃうような気もしますね、最後は。

私は男性・女性にこだわっているわけではないです。脚本をひとりで書いた訳ではないので男性側の視点もあるし、女性側のもあります。女同士のねちねちみたいのも最初の鏡のシーンでやっています。男性からよく思われるためにはこうしなければならない、みたいなのと、そういうのには無関心な娘。

──前作も共同脚本?

前はひとりで書きました。今回は脚本を一緒に書いた人はカメラマンもやっているのですが、自分が書くと台詞がすごく多くなってしまって。でもユーロスペースで公開することが決まっているのなら、20分ぐらいの枠しかないが、長編1本見たぐらいの気持ちになるようなものが撮りたかったので、いらないものを削っていく段階で、台詞で説明するんじゃなくて、画でやっていきたかったから、力を借りてやりました。

──結果的にひとりで書いたより良かったですか?

よかったと思います。

──これからの目標は?

長編を撮りたいです。大人の話でやりたいです。大人の役者と本気で向き合ってやってみたいです。……映画史上で偉大な監督は100パーセント男性じゃないですか。女性より男性の方が映像に向いてるのかな、とか思ったりしますが、その辺の秘密を探りたいです。

──性的なものが男性は視覚から来るから……

今回の桃まつりは男の人から台詞が多いって言われますよね。

──どうですか? ファンタジー、続けたいですか?

続けたいですね。まずひとつは誰でも入れるような映画を撮りたいです。今回いろんな人に見てもらって、普段自主映画を見慣れている人からは、面白いという反応をもらったんですが、そうではない人からは「もういやだ」っていう。

──自主映画のカラーっていうのはあるんですか? 自主映画を見慣れている人というのは?

というか美学校の先生達とか作っているお友達とかですね。一般の人だとつらい、わからないと言われますね。ただ見てるだけで入っていけるような、そういう筋を持った映画を作りたいですね。

私は逆かもしれない。いろんな人に楽しんでもらえる映画を作ろうとして、非常に努力をしたんですが、できません私には。それがハッキリと自分でわかったので、自分が信じられるところのものを、一生懸命作っていこうと思います。

私もそうなるかもしれない。

──一度やってみるべきですよ。

私も長編の企画を考えつつ。今、時間とお金がない状態なので、もう少し短編を撮って模索してみたいなと思いました。

今後は「恋する日曜日」みたいな中高生の恋愛ものを作ってみたいです。

──全然路線が違うじゃないですか。

ちょっと違うのをやってみたいなと思います。

短期的にはこの映画のためにお金を貸してくれた人になるべく早く返す。あとは劇場で公開した作品でも、国内の映画祭に出していきたいなというのと、今回の反省を生かしてシナリオを考えます。今回映画を撮ることによって、家族にかなり迷惑をかけてるんで…… 人非人なところがありました。でも、スタッフ側の気持ちになりすぎずに、編集では非情にならなければとも思います。

──今回スタッフ側になっちゃった?

一回なっちゃったけど、映画美学校での試写が終わった後に、編集をやり直してカットしたところもあります。作品に対して責任を持ったり、後悔しないためには、スタッフがそれを見て怒るかもしれないけど、作品として良くなるようにしたいと思いました。

──「暴君」になれるかどうか、というところですね。本日は長時間ありがとうございました。

(一同)ありがとうございました。

渋谷ユーロスペースにて レイトロードショー
東京都渋谷区円山町1-5 TEL: 03-3461-0211 http://www.eurospace.co.jp
上映中舞台挨拶、イベント開催。詳細は公式HPにて。
http://www.momomatsuri.com

3/14(土)~3/18(水) 壱のkiss!: 『たまゆら』『収穫』『タッチ ミー』
3/19(木)~3/22(日) 弐のkiss!: 『マコの敵』『月夜のバニー』『あとのまつり』
3/23(月)~3/27(金) 参のkiss!: 『地蔵ノ辻』『それを何と呼ぶ?』『クシコスポスト』

17 Mar 2009

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